コラム
  • コラムメイン画像012021.06.08

    とある友人の話。

    峯岸(仮名)は都内で活躍するピアニストだ。
    ピアノ専攻の音大出で、ドイツやアメリカへの留学経験もある。

    一昨年まではライブやイベントでの演奏に加え、
    高校の芸術クラスや個人レッスン等の仕事で問題なく生計を立てていた。

    数ヶ月先まで埋まっているスケジュールは、途絶えることはないと思っていたし、
    ちょっとした有名なライブでも、バックバンドのメンバーとして名前を見るようになっていた。

     

    先日私は、久しぶりに峯岸に会った。
    いつも通り、ニコニコして一件順調そうに見えたのだが、

    「妻と子どもを食わしていかないといけないから、初めて音楽以外の仕事を始めた。」

    と少し笑いながら話してきた。

    「演奏させてもらえる場所が無くなってきてるから、仕事も入んなくってさ。
    自分たちもだけど、裏方のスタッフとか、どうしてんだろ。」

    と、笑顔のまま下を向いた。

     

    今は、この時期を乗り越えようと誰もが試行錯誤している。
    補助金、シェアサービス、デリバリーサービスなど、
    どうにかこうにか頭を回転させて経営を繋いている人が多い中で、
    そもそも活動自体が難しいという人も大勢いる。

    峯岸は続けてこう話した。

    「今、アーティストが別の仕事で生計を立てるのは仕方ないことで、
    何も恥ずかしいことでもないんだけど、
    職場の人に{本業はピアニストです}って言った時、最初はちょっときつかった。笑
    いつかピアノ一本に戻った時のために、常に練習はし続けるけど、
    気持ちを維持するのが案外大変。」

    「街を守ろう。」とか「歴史を守ろう。」とか、常々唱えてきた自分だが、
    峯岸の話を聞いて、表面的な部分しか見てなかったのかもしれないと少し落ち込んだ。
    それを支えてきた人達の存在がなければ、いくら外側を守ったところで同じようには戻れない。
    ニコニコしながら話す峯岸を見ながら、自分は何も答えられずただ頷いて時間が過ぎた。

    様々な業種が何かとオンラインに移行していく中、
    店タクは、あえて「店を開こう」という趣旨で運営している。

    店とお客さん、双方の協力があってのことだが、
    今の時期でもリアルに店を開いている人がいる。
    それが可能なのだから、もっと視野を広くすれば、
    いろんな分野で活動範囲も広がるのかもしれない。

    「あなたたちの業種は今は難しいから」と蓋を閉めるのではなく、
    実現可能なアイデアを出し合って、制限のある職業を減らしていければと思う。